東京高等裁判所 昭和29年(う)2084号 判決
被告人 福原隆
〔抄 録〕
弁護人の控訴の趣意について。
所論は被告人は昭和二十二年五月二十二日東京地方裁判所に於て窃盗罪により懲役八月に処せられ、五年間右刑の執行を猶予せられたものであるが、右猶予期間を無事経過したものであるから、刑法第二十五条第一項第一号にいわゆる前に禁錮以上の刑に処せられたることなき者に該当するのである。然るに原判決はその後の犯行である本件に対し、懲役八月の実刑を科したのであるが、同法第二十五条第一項第二号並びに同条第二項は右同条第一項第一号の場合よりも刑事責任上条件の悪い場合であるに拘らず、尚刑の執行猶予を認めている点から考察すると、本件は最近の刑事政策の眼目である刑の執行猶予と保護観察制度の趣旨にかんがみ刑の執行を猶予すべきであつたに拘らず、原審判決がことここ出でなかつたのは、正に適用すべき法令を適用しなかつた誤があるもので、その誤は判決に影響を及ぼすこと明らかであるから、原判決は破棄を免れないというに帰する。そこで記録を検討するに、なる程被告人の右前科がその後昭和二十七年政令第一一八号により懲役六月に減刑せられ、執行猶予期間も昭和二十七年四月二十七日に無事満了したことは所論の通りであるが、法律上刑の執行を猶予することができる場合に於て、具体的条件につき刑の執行を猶予するか否かは専ら事実審裁判所の自由裁量に委ねられているところであるから刑の執行を猶予しなかつたからとてそれは量刑の当不当の問題が生ずるだけで、所論の如く法令の適用を誤つたものと解すべきではないから法令違反を主張する論旨は理由がない。